なぜ「今」作ったの? ユナイテッド93
2007年 01月 31日
『ユナイテッド93』(原題 United 93)
2001年9月11日に起きた米同時多発テロ。その日の管制センターでの様子と、ハイジャックされたものの標的にたどり着く前に墜落したユナイテッド93(生存者ゼロ)での出来事をドキュメンタリータッチで描いた映画です。
主人公もいなく、セリフらしいセリフもなく、ハンディカメラで客観的に撮影した映像は、渦中の混乱と恐怖をダイレクトに見る側に伝えてくれました。
特に管制センターや空軍の混乱ぶりは、リアルでした。
朝の離陸ラッシュ。管制官たちは担当の飛行機パイロットと連絡を取り合い、時には怒鳴り声も聞こえてきて、管制センター内は喧騒と活気に溢れています。
ちょっとした連絡ミスが何百もの命を奪う大事故に成りかねない仕事。だから常に緊張感があるのは分かりますが、管制官って毎日こんなにハイテンションで仕事してるんでしょうか。
あまりの忙殺さに、Booも私も目が点でした。
そこへ、アメリカン11便との通信が途絶えたという情報が入ります。突然途絶えた通信。事故なのかハイジャックなのか、原因は不明。そして次々とほか2機の飛行機と通信が途絶えます。
混乱の渦中にある管制センターに、今度はワールドトレードセンター炎上のニュースが飛び込んできます。モクモクと黒煙を上げるワールドトレードセンター。錯綜する情報に翻弄され混乱の極みに立たされる人々。
一体ぜんたい、何が起こっているんだ。
「テロです」と、思わず教えてあげたくなるくらいその場の混乱と不安がうまく描写されていました。後半のユナイテッド93での出来事よりも、管制センターでの場面のほうが強烈に感じたのは、やはりそれらが真実に限りなく近いからでしょう。
もちろんユナイテッド93内の描写も鬼気迫るものがあって、緊張感がありました。
印象的だったのは、報復のために命を懸けるテロリストと報復される側の罪なきアメリカ人が、同時に神への祈りをつぶやくシーンです。テロリストはコックピットで、アメリカ人は座席で、神への祈りを絶え間なく口ずさみます。
人種も言葉も信じる正義も違う2人。けれど願いはたった1つ。
「神よ、私を救いたまえ」
ユナイテッド93で何が起こったのか、その事実は私たちには分かりません。けれどコックピットを奪取したテロリストと座席で死への恐怖に怯えていた乗客たちが、同じ人間であることだけは真実なんだなと思いました。
総合的にみて着眼点もいいし、よくできた映画でした。テロリストのリーダー役の人もインテリっぽくてちょっと素敵だったし。死に至るまでの経過を憶測で描くという点では『オープンウォーター』と同じ手法ですよね。あれもハンディカメラで撮影してて、かなり臨場感のある映画でしたね~。
ただ、『ユナイテッド93』という映画を、現実と切り離して見るのは結構難しいかなって気もします。だって未だにアメリカとイラクはもめてますし、9.11が本当にアルカイダの仕業だったのかも謎のまま。現在進行形の事件ですから。
ずっと先の未来に見てこそ意味のある映画だと思います。
✿おまけの感想✿
ユナイテッド93で起こったことは、機内電話や携帯電話から外部に連絡を取る場面以外は、憶測に過ぎません。いくら乗客の一人が「俺たち自身でテロリストをやっつけてコントロールを奪う。Let's Roll!!」という言葉を家族に伝えていても、実際にそれが行動に移されたのかどうかは誰にも(少なくとも一般人の私たちには)知りえないのです。
それなのにユナイテッド93の乗客を、愛国心からテロリストと戦った英雄として称え、「Let's Roll!!」を報復の合言葉のようにしたブッシュ政権が、私は嫌いです。
たとえ、乗客たちが戦ったのが事実だったとしても、それは愛国心からではなく、生き延びたいからにほかならなかったはずです。
by myums | 2007-01-31 17:29 | 映画・海外ドラマ や・ら・わ行