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愛を読む人-the reader-

『愛を読む人』を見ました。
先に原作の『朗読者』を読んでいてすごく気に入っていたので、期待と不安半々で見たのですが、原作の雰囲気を壊すことなく、素敵な映画に仕上がってました。

時は第2次世界大戦下のドイツ。(またかよ!)
15歳の少年ミヒャエルは、下手したら自分の母親になり得るほど年の離れたハンナと、肉体関係を持ちます。初めての相手ですから、ミヒャエルはそりゃもうハンナに夢中になります。

学校がひけるとハンナの家に駆けつけ、細い糸をひいてとろける蜂蜜のように、甘く濃密な時間を共にします。文学少年であったミヒャエルに、朗読をねだるハンナ。愛を交わす前の朗読は、いつしか二人の習慣となっていくのでした。

ところが、ある日突然、ハンナはこつ然と姿を消すのです。

そしてそれから8年後。
法学部の学生となったミヒャエルは、ある法廷の傍聴席から、被告人席にいるハンナを見つけます。ハンナはミヒャエルの前から姿を消した後、ユダヤ人収容所の看守として働いており、その罪で告訴されていたのです。
無期懲役を言い渡されるハンナ。

ミヒャエルは、ハンナの無実を証明するに足りる証拠に気付きます。それは、ハンナが頑に秘密にしていたある事実。

この事実がキーなのですが、とても残念なことに、映画の早い段階で分かりやすいヒントがいくつも出て来てしまいます。原作では、それがさりげなく、上手に隠されているので、私はその事実を知ったときには、すごく驚くとともに、その後の展開やハンナの気持ちにも寄り添うことができたのですが、映画だと、どうだろう。
Booは、ヒント2くらいで分かっちゃってましたけど、映画自体はすごく良かったと言ってたので、支障はないのかな。

この物語の良いところは、前半のエロティシズムと後半の乾いた雰囲気のギャップがきちんと埋まっているところ。正反対のものを扱っているのに、ちゃんとつながりを感じるし、前半があったからこそ、後半のミヒャエルの葛藤が生きてくる。

ハンナはとてもプライドが高い割に、打算のない純粋な人です。
裁判長に、「あなたのしたことは人間として間違っていると思いますか?」と聞かれ、「では、あなたならどうしていましたか?」と聞き返してしまうほどに、まっすぐです。
聞かれた裁判官は言葉に詰まってました。

ナチス統制下の時代。
逆らうことは、銃殺を意味する。
「それでもあなたはナチスに反抗できますか?」
ハンナは裁判長にそう聞いたのです。

自分の正義ではなく、国が定めた正義。それだけが正義。
ハンナのしたことは、間違いなく悪であり、裁かれるべきものでしょう。
けれど、善が悪で、悪が善であった時代の善悪を、今の時代に当てはめて、ハンナだけを裁くことは、あのナチスが行った制裁と似通っているように思えます。
だから、裁判長は反論できなかった。
「私なら、ナチスの言いなりにならず、正義を貫いた」そう言い切れる自信は裁判長には、というか、誰にもないでしょう。


さて、ミヒャエルは、ハンナを理解したいと思いながらも、ハンナを受け入れ愛することはできませんでした。それはハンナが老いたからではなく、ハンナという人間があまりにも自己の価値観に凝り固まっていたように見えたからだと思います。
それでも、ミヒャエルはハンナに素晴らしい贈り物をしたし、ハンナにとっては、それで十分だったのでしょう。

最後の最後でハンナが見せた甘える仕草は、映画ならではのもので、原作では最後までプライドの高い、不可解な人間として描かれています。ミヒャエルの愛情に期待するような仕草は、私のイメージするハンナにはないものだったので、映画を見たときはちょっと違和感がありましたね。

原作の方が断然良いですが、映画も映画で、その映像美に捨てがたいものがあります。映画を見て好きだったら、原作もぜひ読んでみてください。
また違った印象を受けるかもしれません。

by myums | 2009-06-03 23:15 | 映画・海外ドラマ あ行  

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